たった、ひとこと

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  第三章・気高き護りの町―2  

「お買い物行っていいんですか!?」

 今日も魔法の練習を終え、若干疲れた様子で部屋に戻ったルイに「明日買い物に行きましょうか」とカイトが告げると、椅子から飛び上がってルイは喜んだ。
「ええ、大分結界にも慣れたようですし、五日後には出発しますから。旅の準備になりますが」
「わぁ、嬉しいです。お買い物、久しぶり!」
「前回と同じ、私とアイラで護衛します。今度は一人にはさせませんよ?」
 ふっとカイトが笑うと、ルイも「今度は一人になりません」と困ったように笑った。

「でも、何を用意したらいいんですか? 私、旅とか出たことないです」
「そうですね……やはり女性は入り用な物も多いでしょうから、後でアイラにも聞いてみましょうか。……遅いですね」
「アイラさん、デュオさんと一緒なんですよね」
 アイラはまだデュオに引継ぎ終わったばかりのカイトの仕事を手伝うために、ルイがカイトに魔法を教わっている間はデュオと仕事をしている。
 ルイは、今日は随分遅いですねと心配するカイトに、いいじゃないですかと微笑んだ。
「きっと少しでも長くいたいんですよ」
「……やっぱり気づいてました? 二人の事」
「え? えと」
 小さく恋人ですよね……? とルイが尋ねれば、カイトは苦笑して頷いた。
 その様子に怒っているのだろうか、と感じたルイがカイトを見上げたが、ふとその奥にある時計に目が行って、ああ、食事の時間だからだと納得する。

「あの、私まだ全然お腹空いてないし、大丈夫です……!」
 アイラがルイの身の回りの世話をする、という事は、食事の用意をしているのもいつもアイラだから。もちろんアイラが作っているのではなく、作られた食事を運ぶというものなのだが。
「それにそれくらい自分でできますよ……?」
 元の世界ではもちろん自分で料理をして食事していたのだから、むしろ今の状態が不思議なのだとルイが言えば、カイトが少し嬉しそうに「それは」と微笑んだ。
「楽しみですね。旅の途中は料理人もいませんから、もしかしたらルイさんに料理をお願いするかもしれませんよ?」
「ええっ、おいしく作れるかなぁ……カイトさんが食べると思うと、緊張します」
 俯くルイに、カイトの頬がかっと赤くなる。ああこの子は。どうしたものか、とカイトが無意識にルイに手を伸ばしかけたところで、扉が開いた。
「る、ルイ様申し訳ありませんわ!! 遅くなって……あら」
 顔が赤いカイトを見るなりにやにやと笑うアイラに、カイトはすぐ顔を逸らして食事の準備を! とこの屋敷の者らしく声を張り上げる。
「はい、ただ今」
 くすくすと料理を広げだすアイラを横目にカイトがルイを見れば、既にルイはアイラが戻ってきた事で嬉しそうにそちらに視線を移し会話を楽しんでいる。
 悔しそうに唇をほんの少し尖らせたカイトを、にっとアイラが見返す仕草はルイは気づかないのだけど。


「まぁ、お買い物ですのね。わかりましたわ」
 話を聞いて嬉しそうに笑うアイラが「今日はリストをまとめなければ」と意気込む。
「あまり荷物を多くしてはいけませんよ……」
 意気込みを見て若干呆れ気味にカイトが頭を抱えるのは、前回の買い物の量を見ているからだろうが。
「それにしても、旅には馬を使うのでしょう?」
「その予定ですが」
「えっ」
 驚きの声を上げたのは、ルイ。その表情は少し曇っていて、カイトが続けて「え」と声を返す。
「ルイ様この前、町の中で見た馬車が珍しいって。馬を見ることも余りなかったようですけれど」
「そ、うなんですか?」
 カイトの質問に、申し訳なさそうにルイは返事を返した。
「私、多分馬なんて乗れません……」
 しばしの沈黙。破ったのは、カイト。
「問題ないでしょう。私が支えますよ?」
「……え?」
「か、カイト様っ」
 驚くアイラの横で、一旦首を傾げたルイがすぐに「カイトさんと一緒に乗れるんですか?」と極普通の声で聞く。
「ええ、もちろん落としたりはしませんよ」
「わ、嬉しいです。私、乗馬なんて初めてです」
 横で「あれ?」と首を傾げるアイラがいたのだが、微笑み見つめあうそこは既に二人の世界になっていて。

 これで何故付き合ってるのではないのだとアイラはこっそりとため息をついた。
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