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たった、ひとこと
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第三章・気高き護りの町―4
「いよいよ出発ですわね」
「うー、緊張してきました」
食料を詰め込んだ荷物を抱え、アイラはルイの部屋で意気込んだ。ルイは緊張で少し唇を噛んでいて、アイラは困ったように手を添えた。
旅の支度も終え、今日の昼前には王都を発つ事になっている。
ルイに各町の神の加護を与える為の巡礼の旅。最初の予定は、守りの街テルス……地のダイヤモンドの加護を厚く受けた街。
「いけませんわ。唇が切れてしまいます。ルイ様、道中はカイト様がお守りくださいますから」
「でも、闇の民が現れるかもしれないし。それに、少数で行くんですよね? もしかしたら戦闘、なるかもしれないし」
「少数でも、精鋭部隊ですわ。まさか、デュオ様までご一緒できるとは思いませんでしたが」
「……今更なんですけど、ここ、大丈夫なんですか? 騎士団の上位二人が抜けちゃって」
「あら、騎士団はもともと軍の上位から選ばれる団体ですから、大丈夫ですわ。今はまだ闇の民は簡単に我らが王の結界を越える事ができませんから」
ルイはアイラの言葉に、少しほっとしたように笑みを見せた。
自分の護衛でカイトだけではなくデュオまで付き添わせるのは、と気にしていたのだが、街に張り巡らされている"王の結界"はまだ闇の者に対する事ができる。
あくまで、まだ、だ。だからこそ確実なる守りを得る為に神子であるルイが各町の守護を得にいく……その為の護衛は、やはり確かなる者を、との上層部の会議の結果、騎士の中でも最も力の強い上位騎士二人と、他数人の騎士で隊が編成されたらしい。
本来ならば神子は堅い守りの中で生活するもの。むしろ、いくら上位騎士が含まれていようとも少ないくらいだとアイラからしてはため息ものだ。
「テルスまでは、馬でも四、五日はかかると思われます。疲れはお体に響きますから、熱っぽいなと感じることがありましたらすぐおっしゃってくださいね?」
「はい、大丈夫」
アイラとカイトの心配の一つである、ルイの体調。彼女は普段から熱が高く、そしてそれは通常の事でありながら彼女にとって辛いものであり、心配の種である。
馬に乗れない彼女はカイトに支えられての移動になる。常にルイに触れる事になるカイトが異常には気づくであろうが、何せ彼はルイを想うあまり近すぎるとその異常に気づけないのでは、とは彼の親友であるデュオの言葉。本人は否定するであろうが。
「心配ですわ……」
「大丈夫ですって、アイラさん。私、ばっちりですから」
にこりと笑うルイは、恐らくアイラの心配の意味はわかってはいない。
はぁ、とアイラがため息を漏らしたところで、部屋の扉が叩かれた。
「失礼しますね。準備はできましたか?」
現れたのはカイトとデュオ。二人はルイとアイラの荷物を手にすると、それでは行きましょうと頷いて、カイトはルイの手を引いた。
実は、ルイの緊張はもう一つあった。まだ神子の事は話さない、という事らしいが、どうしても噂は立つかもしれないと言われたのだ。
それはもちろん、騎士の上位二人を含む騎士団が、女一人守りながらの旅。もちろん、新しい能力者の育成において護衛は度々あるが、護衛の質が違いすぎる。
今回、または次回の街でのルイの能力の成長の様子を見て発表する、とは言われているが、やはりどう思われるのかわからない今、ルイの心を占めるのは道中の危険性より未だ強い力を見せない自分が過度の期待を与えることにならないだろうかという不安だった。
「ルイさんは私の馬へ」
そう言われながら屋敷を出て、待機していたのは十数人の兵、騎士の姿。
カイトの姿を見て即座に姿勢を正し、揃われた挨拶の声が周囲に響く。
「おはようございます!」
「おはよう」
返すカイトはすぐさま一列に並んだ騎士たちの前で、何かを話し始めた。
すぐ横で話し始めた会話だが、ルイの頭には入ってこない。騎士達の視線が全て自分に注がれ、軽くパニックを起こす。
「ルイ様」
ルイの様子に気づいたのかアイラがそっとルイの手を引き、まっすぐに横に並ぶ騎士全員の目を見た後ルイを馬まで案内する。
後ろでデュオとカイトの叱責の声が聞こえて、ルイは困ったような表情で振り返った。
「アイラさん。私、なんで」
「ご注目されておりましたのは、ルイ様の護衛につく騎士の面子からルイ様がよほど強い能力者だろうと推測していた為だと思いますわ。ルイ様の特徴は一切触れていませんでしたから、若い女性が現れて驚いたのでしょう」
「どうしよう。私、まだ全然魔法使えないのに」
「大丈夫ですわ。ここに集まった騎士には、街を出た後ルイ様が神子である事を打ち明けることになっておりますから」
むしろ護衛は少ないくらいです。とアイラは微笑んで、荷物を解散した騎士に預け、慌てて走ってきたカイトに「それでは」と告げて離れた。
実際は、ルイの見目に目を奪われていた者がほとんどだったような気もするが、カイトの不機嫌な顔を見てアイラは苦笑する。
ルイはデュオに連れられて自分の馬へと移動するアイラの背を見ながら、ふと視線を感じて顔を上げると、カイトがどこか困ったように微笑んでルイを見ている。
「カイトさん?」
「……、行きましょうか。少し目立ちますね。フードを被りますか?」
いいながらカイトはそっと、優しい手つきで……ただ、ルイの返答を待たずにマントを羽織らせ、フードを被せる。
「カイトさん、今から被ったら前、」
「支えますから」
何が、そうルイが口を開く前に、足元に段差が見えて、それに足をかけた後すぐにルイはふわりと身体を持ち上げられる。
「……っ!? カイトさんっ!」
「ほら、大丈夫でしょう?」
あっさりとした言葉に、自分がすでに馬上にいることに気がついたルイは、ひっ、と息をのみ横のカイトの服を思わず手繰り寄せ、抱きついた。
ああ、と理解した声と、残念そうな声が周辺に上がりカイトの耳に届いたが、ルイはあわあわと目を瞑り恐らく気づいてはいないだろう。
ふっとその様子を見て微笑み、そのままルイの背に腕を回してカイトが声をかければ、ルイはびくびくとしたままおそるおそる目線を上に向けた。
「落ちませんから。ただその体勢だと危ないですから、ちゃんと右足を馬に回して下さいね」
「わ、私が前、なんですか。怖いです」
「しがみついてないと、ですか?」
くすくすと聞こえる声に、漸くカイトに正面から抱きついたままだと気づいたルイは慌ててその胸を押したのだが、離れる事は叶わない。
「押しては、落ちますよ」
「うぁ、えと」
「ほら、前を見て。ちゃんと後ろから支えます。あなたが後ろにいては、守れませんから」
「……っ、さ、支えてて下さいね!?」
ゆっくりと片足を移動し、馬に跨ると深く息を吐く。少しルイの手が震えているのは気のせいではないだろう。
「私に身体を預けてください。絶対に、落としませんから」
「ほらカイト、出るぞ」
デュオの声に、カイトが頷く。向かうは、王都の西、地の加護を受ける、守護に長けた街テルス。
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