たった、ひとこと

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  第一章・見知らぬ土地―3  

「そうです、ね。すみません。先程の戦闘で、驚いてますよね? とりあえず、この先に私が使ってる小屋がありますから、一旦そこに行って話をしましょう。休ませてあげたいところですが、ここは危険です。先程の戦闘でまたあれが寄ってくるかもしれません」
「……はい」
 ゆっくりと手を貸してもらい涙は立ち上がり、状況を把握しようと深呼吸し顔を上げた。
 やはり景色は変わらない。鬱蒼とした薄暗い森の中。数歩先には先程の怪物の肉片。そして、自分の身体を襲う痛みは本物。これは、夢ではないのだと涙は一度目を閉じ首を振った。

 一体先程のあれは何なのか。ここはどこなのか。
 支えられたままゆっくりと歩き、唇を噛み締めた。

 ……それにしても、よく見ると彼は変わった服装をしている、と、涙はそっと青年を見た。
 黒のパンツに濃い青色の何やらバッチのついたジャケットを羽織っていて、それはまだ普通の範囲……、と何とか自分を納得させたが、腰のベルトには涙にはよくわからない形の綺麗な石や杖に見える物等がついていて、腕や、上着に隠れているが足にも同じようにベルト。小さな短剣もある。微妙に、生地も涙にとって馴染みある物とは少し違うようだ。

 そういえばさっきの剣はどこにいったんだろう。そこまで考えてふと顔を上げると、彼も涙の様子に何か思うところがあるのか、その視線が涙の身体をじっと見つめている。
「あ、あの」
「ああ、すみません。えっと、鞄に何か護身用の武器は入っていますか?」
「ぶ、武器!?」
(何言ってるの、そんなもの、普通持ってない……っ)
 焦る涙が困惑した表情で背の高い青年を見上げると、一度その表情を見て「あ」と呟いた青年は少しだけ視線を泳がせて、口元に考え込むように握った手を当てた。
「ない……ですよね」
「いや、えと、あの」
 絶対おかしい。そうは思うのに、彼が冗談を言っているようには見えない涙は、返事にならない言葉を繰り返す。
「あ、小屋が見えました。少し待っていてください」
 そんな涙を苦笑して見つめ、青年は涙を引いて小屋の傍までくると、中を確認してほっと息をつく。
「……大丈夫そうですね。中に入って話しましょう。守護壁を張りますから、安心して下さい」
 守護壁って何。そうは思ったのだが、涙はそのまま扉を押さえている青年にぺこりと頭を下げて、小屋の中へと足を踏み入れた。

 小屋の中は棚とテーブルに椅子が二脚、ベッドが一つ。殆ど必要最低限と思われる物しか置かれて折らず、極稀に利用する程度といった様子が見て取れる。
 彼は扉を閉めるとベルトから外した何かを手の平で握り閉め、ぼそぼそと何か呟いた。途端に冷え切った小屋の中が少し暖かく感じ、張り詰めていた気が少し軽くなる安心感に包まれる。
「……寒いですか?」
「少し」
 震える涙を見て、彼は優しく声をかけてくれる。
 ぽっ、と急に灯りがついて、はぁと深く息を吐く。
 寒くて震えているのか、恐怖で震えているのか。
「これを」
 青年は腕のベルトを外し、ジャケットを脱ぐと涙の肩にそっとかける。暖かいジャケットが、涙の震える身体を包む。
「あの、私」
「待って。落ち着いて、ゆっくりお話しましょう」
 青年は安心させるようにか、にっこりと微笑んだ。
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