●● 選ばれた戦舞姫 --- prologue1 ●●
――それは素敵な素敵な憧れの宝石
綺麗な輝く大きな宝玉に、散りばめられた色とりどりの宝石が美しい王家に伝わる不思議な石。
触れる事ができるのは、選ばれた救世主のみと噂される美しい魔力(ほうせき)
触れてしまった可哀想な少女は、まだその時たった三歳だったという――
「お嬢様。お嬢様! ルーチェ様! 起きてくださいませ!」
「うーん、もうちょっと……」
「もうちょっとって、もう朝の八時でございますわ! 今日は旦那様が朝食をご一緒にと、起きてくださいませ!!」
揺り起こされた私は、まだ寝ぼけ眼で言われた言葉を反芻した。
旦那様が……朝食を……
「え! お父様がお帰りなの!?」
「ですから、そう先ほどから申しておりますのに!」
「やだ! 早く起こしてくださいですよぅ!」
慌てて私はふかふかのベッドから飛び降り、夜着から薄手のワンピースに着替える。
首にはアイオライトのネックレス、耳には両耳合わせて三つのピアスに、腕には沢山のブレスレット。
とりわけ左手首からブレスレットでつながれ、の甲を覆うように、指輪で止められている大きな宝玉は何色とも表現できない不思議な色合いで、私の身体は宝石だらけ。
といっても、左手の甲の石以外は結構小さくて素朴なものもおおいのだけど。
手の甲を隠すように袖の長いワンピースで宝石を隠して、私は薄い桃色の癖のある髪を侍女に梳かしてもらいながら手首の宝石をひとつひとつ確かめる。
よし、今日もばっちり。
「ありがとうシエル! お父様のところに行って来るです!」
「お嬢様、廊下は走らないで下さいませっ」
慌てる侍女のシエルにはぁいと片手を挙げて、私は急いで食堂へ。
食堂の扉を開けると……
「お父様! お帰りなさい! いつ戻られたんです?」
「おお、ルーチェ。朝から元気だな。今朝戻ったんだよ」
大きな身体を揺らして、お父様が私に笑みを返してくれる。
お父様は、この国イオンテリアの軍隊の大将。いつも仕事で家にいなくて、会える日はめずらしい。
しかも最近ではこの世界に三つある国のうち、一番密接している国であるランデリアと冷戦が続いていて、油断できない状態。
会うのは、数週間ぶりだ。
最近会った事や、お父様の仕事のお話を聞きながら和やかに進む朝食。
お父様はとても優しい。お母様は私が生まれた後すぐに亡くなってしまったみたいだけど、とても愛情を注いでくれる。
そして食事を終えた私達の間に、突如ぴりりとした空気が走った。
「ルーチェ・アイオライト特務師団長」
「はい! アイオライトイオンテリア軍副団長!」
仕事モードのお父様に、私はぴっと姿勢を正す。
私はこのイオンテリア国の、特務師団長ルーチェ・アイオライト大佐。本当はもっと上の階級を、といわれているけれど、私はまだ十七歳なのだ。
お父様はイオンテリア軍の、副団長で階級は大将。とても忙しくて家に帰れないのは、しょうがない。
「レイン・クンツァイト少将の所へ向かい、例の薬を受け取るように。陛下がお前に頼みたい事があるそうだ」
「……任務、ですね、わかりましたです、お父様」
ぐっと手を握るのを見て、お父様は私が仕事の話で「お父様」と呼んでも咎めず顔を歪めた。
「きっと無事に戻ると信じているぞ、ルーチェ。無理はするでない」
「もちろん、お父様。ルゥには、いつでもイオンテリアの神のお力がついております」
それは……この左手の甲の石が証明してくれていて、そして受け入れなければならない……運命だ。
朝食を終えた私はお父様に挨拶をして、軍服に着替える。ひらひらのスカートが可愛い、私特別の軍服。なんたって、特務師団は私しかいない陛下付きの特別な師団だ。
その行動は他の師団には伝えられていない大切な軍務が多く、なぜそれが十七歳の私が行うかといえば……偏にこの左手の石が原因だ。
この国の神の力が宿っているとされる宝玉、イオンテリア石。この石に選ばれた私は、数々の訓練を積んで軍へと入った。
この国を、守る為に……陛下を、守る為に。
「レイお兄様!」
「やぁ、ルゥ、待ってたよ」
私の事をルゥ、と愛称で呼ぶレイお兄様は、レイン・クンツァイト少将と言って私のお兄ちゃんみたいな人。とっても優しくて、仕事もすごくできるかっこいいお兄ちゃんなんだ。
さらさらの少し長め黒髪に、赤と青のオッドアイ。何かの研究でもともとの青い瞳が、右目だけ赤くなったんだって聞いた。
小さな頃から面倒見てもらっていて、大好きなお兄様。二十六才だから……私と九つも離れてるのに、その年で少将っていう凄い人。すごく魔術が強いんだ。
それに、特殊な体質になってしまった私の身体を守る薬を唯一作ってくれる人。頭もめちゃくちゃいいんだよね。
「お兄様、お薬貰いに来たの」
「うん、できているよ。でも、絶対飲み過ぎない事。わかってるね? 一人で飲むときは無理矢理宝玉の魔力を取り出す事になるんだから」
「わかってるです、お兄様。っていっても、一人で飲む予定しか今のところないんだけど……」
むぅ、と頬を膨らます。
「わかってるよ? 早く彼氏できたらいいね?」
「む、お兄様ってばひどいです!」
優しく笑うお兄様に、本気で怒る私。
だって私が憧れている人は……絶対、叶わない相手なんだよ。
「ほら、薬持って、早く陛下の所に行っておいで。旅に出るなら先にここに寄るんだよ?」
ふわり、とお兄様の大きな手が私の頭を撫でる。頭を撫でられるのは好き。とっても気持ちいい。
「わかったです、行ってきます!」
陛下、と聞いて私は嬉しくて満面の笑みをお兄様に返してお兄様の執務室を後にする。
陛下、今日は何してるのかな。頭撫でてくれるかな?
その時どんな任務を言い渡されるかも知らずに、私はうきうきと皇帝陛下の私室へと足を向けていた。
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